soomyaの成り上がり物語

そのうち大手歌い手兼トップユーチューバー兼プロゲーマーになります。

【特別編短編小説】ねこばたけと浴衣と僕。

6月の終わり頃、いよいよ本格的に夏が始まる。ここ数日、じわじわと押し寄せてくる熱気で体感的にも夏の訪れを予感していた。

例年ならばこの暑さにやられて仕事や恋愛に億劫になっているところなのだが、今年は違った。

夏なのに春が来ているのだ。

ねこばたけは素敵な女性である。

何事にも全力で(はたから見るとどうでもいいようなことであっても。)何か新しいものを見つけたときのリアクションはさながら、田舎から都会に来たばかりの初々しい少女のようだ。

そーみやにねこばたけについて語らせるならば、100の夜、寝る時に子守唄代わりに語らせても言葉を紡ぎ続けられるだろう。

そーみやはそれほどまでにねこばたけという女性を溺愛していた。

しかし、そーみやはねこばたけに想いを告げることは決してなかった。

「僕にもっと自信があればなぁ。」

そーみやは三度の飯より女性が好きな男であったが、いざという時には奥手になってしまうそんな臆病者であった。

女性に接近することに関しては、並々ならぬの積極性を持ち、事軽口に関しては他の追随を許さぬほど得意であった。

少しでも日光を免れようと、カーテンを閉め切っている薄暗い6畳ほどの自室は、

そんな遮光の甲斐なく気温三十度を迎えようとしていた。

「何か突破口を見つけないとなぁー。」

少ない脳みそをフル回転させて、そーみやは考える。

その時、名案を閃いた。

「そうだ。もうすぐ夏なんだから祭りはいくらでもある。ねこばたけさんを夏祭りに誘おう!もしかしたら、浴衣も見れるかもしれないぞ。」

そーみやはすぐさま行動に移った。

ねこばたけさんに連絡を取る事にしたのだ。

連絡を取る手段は、勿論、twitterである。

この一言を聞くと、視聴者の皆様はこう思うであろう。

twitterで連絡?はてさて、そーみやはどうやってねこばたけさんと知り合ったのだろう。」

そう、この点こそがそーみやとねこばたけとの関係性を表す点で非常に大事になってくるのである。

時間をねこばたけと出会う前まで遡って話をしよう。

そーみやは暗い男であった。

先の見えない人生、病弱な身体、すり減る精神、そーみやは非常に弱っていた。

度重なる大会での連敗もそれらを後押ししていた。

「はぁ、人生おもんないな。動画配信サイトでも見て暇を潰すか。」

だらだらとゲーム実況配信を見るのがそーみやの日課だった。

しかも、特段面白くて見ているわけではない。惰性で見ているだけだ。

そんな時、ふと、見た事のない配信を見つけた。

そう、ねこばたけの配信である。

ねこばたけは常に話題の人気ゲーム。

何百万もダウンロードされ、知らない人はいないくらいのゲーム。「シャドウバース」をプレイしていた。

そーみやも勿論、シャドウバースをプレイしていたし、度重なる大会での連敗というのもシャドウバースの事であった。

そして、そーみやは見慣れたシャドウバースの配信で脳に稲妻が落ちたかのような衝撃を受ける。

「わー!すごーい!かっこいい!

うわー。まーけーたー!」

とてもシャドウバースを楽しんでいたのである。

そんなごく当たり前のような光景はそーみやにとってはとても新鮮なものであった。

そーみやにとって、シャドウバースとは、勝負の世界であって、勝つか負けるかの命の取り合いであった。そこに面白いや楽しいなどの感情はほとんどなく、大会での痺れるような感覚を除いては、シャドウバースで心を動かす事はあまりなかった。

「こんなに楽しそうにゲームをする人がいるんだな。」

ねこばたけのシャドウバースの技術力はぱっと見大したことはない。

そーみやから見ればむしろ下手な部類である。

でも、そんなことは関係ないのだ。

「俺が忘れたもの。捨ててきたものをこの人は持ってる。」

そーみやはそれが嬉しかった。

何故かは詳しくは分からないが、とにかく嬉しかったのだ。

明るく元気なねこばたけの配信は見る人に元気を与えてくれる。

普段、そーみやもゲームの配信をする事があるのだが、後で自分で見直してみるとつまらなそうにプレイしてたものだ。

同じシャドウバースでも全く違う世界がそこにはあった。

「あー!負けた!悔しい!」

また、負けていた。

しかし、その顔は嬉々として楽しそうであった。

「俺もへこたれてばかりいられないな。

シャドウバースをこんなに楽しそうにプレイする人がいるだ。世界は広い。

何か俺も頑張ろう。」

そーみやはその日から、何事にも前より少し真剣に取り組むようになった。

掃除機を1日1回かけてみる、朝はランニングしてみる、スーパーで食材を買ってきて自炊してみる。

そんなささいなことだ。端から見れば全然大したことはない、普通の事だ。

しかし、そーみやにとっては大きな変化だったのだ。

「ねこばたけさんには負けてられねえ。」

そーみやはそうしてまた、掃除機をかけるのであった。

ー続くー

(この物語はフィクションです。

物語に出てくる人物・団体は現実のものと関係はありません。)